シニア世代とYouTube

すっかり身近になった様々なSNS。これらを使いこなして発信するのは若者だけではありません。動画配信
サイト「YouTube」では、60代以上の「シニアユーチューバー」の活動にも注目が集まっています。

かつては「いち視聴者」の立場でも

大阪府内に住む服部美智子さん(64)は、自身のチャンネル「pokkoma life」を2020年3月に開設した。夫と共に年金暮らしをする日常風景を「Vlog」(ブログの動画版)として発信している。「モーニングルーティン」と題し、家の窓すべてを開け、家じゅうをくまなく掃除するといった起床後の一連の様子を、心地よいBGMのもと紹介。さらに冷凍パンをせいろで温め直したり、クエン酸水にアロマオイルを垂らし洗濯の柔軟剤に使ったり、暮らしに少しの工夫をプラスして楽しむ内容には、視聴者から「ほっこりする」「私も取り入れたい」などのコメントが寄せられる。

YouTubeチャンネル「pokkoma life」から。登録者数は3万1千人以上(10月3日時点) https://www.youtube.com/c/pokkomalife

今や人気シニアユーチューバーの一人となった服部さんだが、かつては「皆さんと同じ、いち視聴者に過ぎませんでした」と振り返る。パソコンには慣れていたが、動画制作は「私には関係ない、程遠い世界に感じていた」という。

 

生きた証しを子や孫に残したい

動画制作のきっかけは60歳過ぎに体調を崩し、長年続けた仕事を辞めてから。たっぷり時間ができ、写真や終活ノートでは伝えられない「生きた証し」を子や孫に残したいと思ったからだ。

撮影機材のスマホと三脚。夫も撮影に協力してくれる

知人から教えを受けコツをつかみ、今では素材を撮りためた後、1本あたり4、5日かけてパソコンで編集し投稿する。想像していたほどのハードルの高さは感じなかった。 撮影機材はスマホと三脚のみ。「気負わずありのままを伝えたいので台本はありません。動画をつくるなら、働いている時にはできなかったことを動画にしたいと思いました」。こうした思いから、フルタイム勤務時にはつい後回しにしていた掃除や料理など、日常生活そのものを大切にした動画を投稿するように。「そうすると家の居心地が良くなり、夫との関係性もずいぶん穏やかなものになりました。不思議なものですね」と笑う。視聴者との交流も生まれ、手紙や電話のやりとりも楽しみの一つだ。

 

視点を変えれば発信できる素材が

NTTドコモ モバイル社会研究所の調べ(※)では、You Tubeに投稿する60代は男性3.5%、女性2.2%。服部さんのような存在はまだ珍しい。

パソコンに向かう服部さん。「最近は『YouTubeショート』と呼ばれる1分動画もあり、編集や投稿のハードルは下がっていると思います」

何か発信したいと少しでも思う同世代には「スマホの写真モードを動画に切り替え、家族や友人へのメッセージ動画から始めてみては」と話す。発信する内容が何もないと思う人には、「例えばいつもの散歩コースや、窓からの朝日は、時間や季節で印象が変わります。断捨離で捨てる物を一つずつ映しておけば、人生のアーカイブにもなりますよ」と次々アイデアが披露される。

少しだけ丁寧に見つめ直せば、私たちの日常は発信できる素材であふれていることを、服部さんの動画は教えてくれている。

 

※調査対象:全国・15~79歳男女・スマホ・ケータイ所有者対象・複数回答・n=6587

 




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カテゴリ: ライフ&アート